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日本の河川生態系の一次生産者として優占する付着藻類の代表種5種を選定し、農薬の毒性試験を効率的に行うための新たな試験法を開発するとともに、詳細をマニュアルにまとめて公開しました。

日本の河川では、主に水田で使用された除草剤が高い頻度で検出されます。除草剤は河川生物の中でも一次生産を担う付着藻類に対して高い毒性を持っています。ところが、除草剤の藻類に対する生態影響評価では、ほとんどの場合において単一の標準試験生物種(緑藻のPseudokirchneriella subcapitata)が用いられてきました。この藻類は、培養が容易で増殖が速く、化学物質に対する感受性も高いため、世界中で標準試験種として毒性試験に使用されてきました。ところが、この藻類はノルウェー原産で日本に存在しないばかりか、河川に生息する種でもありません。さらに、同じ除草剤でも藻類の種によって、毒性が1000倍以上も違うことがこれまで報告されており、単一の種に藻類群集を代表させることは、生態学的にも毒性学的にも困難であることが明確でした。そこで、複数の付着藻類を新たに試験生物種として選抜し、これらを組み合わせることで藻類群集としての代表性を高めることが必要と考えました。そこで、河川付着藻類群集を代表させる試験生物種として、日本の河川生態系に幅広く分布し、実際の種構成を反映するように5種を選定しました:緑藻1種(Desmodesmus subspicatus)、珪藻3種(Achnanthidium minutissimum、Nitzschia palea、Navicula pelliculosa)、シアノバクテリア1種(Pseudanabaena galeata)。これらの株は公的系統保存施設より誰でも入手可能なものです。

ただし、単に付着藻類を用いて試験すれば良いわけではありません。試験生物種のみならず、藻類の毒性試験方法自体にも問題があったのでした。既存の藻類の毒性試験方法は、OECDテストガイドライン等で標準化されたものがあります。通常、ガラス製の三角フラスコを用いて藻類の培養を行い、間隔を開けてサンプルを採取して藻類の細胞数をカウントし、増殖速度を求める試験です。付着藻類を用いてこの試験を行うと、藻類はガラス壁面へ付着して細胞数のカウントができません。また、適時サンプルを採取して細胞数をカウントするなど非常に大変な試験で、多種類の藻類を一度に試験することなどとてもできないのでした。そこで、付着藻類の試験に適した新しい試験法の開発を目指し、さらに多種類の藻類を一度に試験できるようにより簡単な試験にすることも目指しました。

従来の三角フラスコを用いた試験法の代わりに、マイクロプレートの底に藻類を付着させて培養を行い、測定も付着させたままで行う方法にしました(図1)。これなら、付着藻類でも問題なく試験が可能です。しかも、マイクロプレートを使うことで省スペースとなり、培養液の分注や藻類の生物量の測定も自動化され、作業効率が大幅に向上しました。これなら多種類の藻類を同時に試験可能です。また、生物量の指標として、蛍光プレートリーダーを用いてクロロフィルa等の光合成色素の自家蛍光を測定することで、高い感度と繰り返し精度の向上も達成しました。

付着藻類のハイスループット試験法の開発
図1.付着藻類のハイスループット試験法の開発

開発した新たな試験法の詳細について、わかりやすいマニュアルを作成して公開しました(図2)。単に試験法のみならず、農薬の生態リスク評価をめぐる背景や、試験法開発の必要性、付着藻類の選定根拠についても詳しく記載しています。また、効率的な試験系では得られるデータの量も非常に多くなるため、これを効率的に解析できる統計解析法についても解説しています。さらに、得られたデータを生態リスク評価に活用する方法についても紹介しています。このマニュアルは、農業環境技術研究所のウェブサイト(http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/algae/index.html)から、電子ファイル(PDF)と、試験データの統計解析用のExcelファイルをダウンロードして入手できます。また、希望者には印刷物を配布しています。

試験法マニュアル
図2.試験法マニュアル






文献1:Nagai T, Taya K, Annoh H, Ishihara S (2013)
Application of a fluorometric microplate algal toxicity assays for riverine periphytic algal species.
Ecotoxicology and Environmental Safety, 94, 37-44



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